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○○○駄文、おヒマな時の、ジカンツブシに、
駄文庫『ぼくらはみんな生きている』

[ネコ]
私が彼のアパートの部屋へ引っ越した時、一番最初に挨拶をしたのが、野良猫のミーちゃんだ。
ちゅちゅと舌を鳴らして近付くと、すぐにお腹を見せて触らせてくれた。
ミーちゃんはミケ猫で、きりっとした目の周りはアイラインを入れたように黒い。
近所の人が通りがかりに「本当にミーちゃんはいつも綺麗ね」などと声をかけるほどの美猫だ。
私達がそのアパートを引っ越すまでに、ミーちゃんは2度出産をした。
お相手はミーちゃんとは正反対。特徴を恋人募集欄に載せるとしたら、
『当方、丸くてでかいっす。毛並み悪いっす。風呂入ってないっす。特技、人間の女にメンチキルこと』と、まあ、こんな風だ。
私は、『ミーちゃんならもっとイイヒトがいるのに』とがっかりしたが、
そんなことはお構い無しに、お腹は大きくなり、やがて近所の家の物置き小屋で子猫が産まれた。
子猫が少し大きくなると、ミーちゃん達は物置き小屋の壁の穴から出入りし、道ばたで日なたぼっこをするようになった。
通りがかる人達が、子猫をかわるがわる抱いていたが、誰が子猫を抱いても、ミーちやんは、ゆったりと見ていた。
ミーちゃんは残念な程に人を信じていた。元は人に飼われていた猫だから。
やがて子猫達はいなくなった。
ミーちゃんが2度目の出産をどこでしたのかは知らない。前の物置きの穴はすでに塞がれていたから。
時々子猫を連れたミーちゃんを見かけた。その子猫が、 5匹いたのが 或日3匹になり、そしてまた或日1匹になった。
そんな時、二階の部屋の窓から中庭を見ると、柿の木の横にミーちゃんがいた。
『ちゅちゅ』と呼ぶと、すぐに私に気が付いたので、手をひらひら振って、おいでおいでをした。
そんな事をしたのは初めてだったのだが、ミーちゃんは、すぐに了解し、階段を上がり、部屋の前へ来た。
私はミーちゃんにツナをあげたかった。まだお乳を飲んでいるであろう子猫のために。
ところがツナを差し出してみるのだが、ミーちゃんは食べない。廊下の柱に体をすりつけては、反転し、また体をすりつけては『みぃ』と鳴く。
子猫にあげて貰いたいのだろうと察して、私が腰を上げると、
『待ってました、はい、こちらですよ』と言わんばかりにミーちゃんは階段を駆け降りて、子猫の所へ私を案内した。
猫にIQテストがあったらどうだろう。こんなミーちゃんは満点に違いない。ところがもっと驚く事があった。
私の前に行儀良く座った二匹なのだが、子猫にツナを差し出すと、横からミーちゃんがぺろぺろっと食べてしまう。
子猫はと言うと、人からまだ餌を貰うことが出来ないのだ。だから『こうやって食べるんですよ』とミーちゃんは教えているらしいのだ。
猫に母親テストがあったらどうだろう。こんなミーちゃんは・・・・・・・。やめておこう。
暫くしてその子猫もいなくなった。
ミーちゃんは、一日中鳴いて子猫を探していた。
隣の家のおばあさんが言った。
近所の猫嫌いの人が袋に入れて子猫を捨てたと。
おばあさんが、その場面を見たのか、想像で言ったのか私には分からない。
隣の家のおじいさんが言った。
いい人に貰われて行ったんだよと。
おじいさんが、その場面を見たのか、希望を言ったのか私には分からなかった。2003.10.20


[クモ]
私がホンチの話をすると、一回り近く年上の友人は「何で知っているの?」と言って不思議がった。
それから、「カマを振るうのがかっこいいんだよな」と嬉しそうに言った。
子供の頃、横浜の丘には、まだ原っぱが沢山残っていた。
私は父親に連れられ、言われるままに、自分の背丈程ある草むらでホンチ探しをした。
子供の頃の原っぱは、だだっ広く、その中で小さなホンチを見付けることなんて出来ないと思っていた私は、
ただ原っぱを右往左往し、仕舞には何を探しているのかも分からなくなった。
ホンチとは、小指の先ほどの黒い蜘蛛だ。この蜘蛛どおしを戦わせる。
父親が子供の頃盛んだった遊びで、その後伝承されてゆくのだが、今では知っている人は少ないだろう。
ホンチという言い方も、脱皮前の蜘蛛をババと言うのも横浜の方言らしく、この遊びを知っているのはごく限られた地域の人と思っていたのだが、
ある作家の本を読んでいたら、千葉の漁師の間から広まった遊びと書かれてあったので意外な気がした。
父からはホンチ遊びだけでなく、釣り、将棋、おいちょかぶ(賭けてません念のため)と教わったけど、大人になった今は、どれとも無縁である。
ただ、ホンチという言葉のひびきは懐かしいし、釣りの『あたり』があった時の手の感触だけは覚えているけど。
人になってからもホンチを探し、見付けたと言って喜んだ。
男の子には蜘蛛の戦う姿がかっこいいらしい。
『蜘蛛女』という映画がある。
『蜘蛛男』というのもある。それは仮面ライダーの怪人です。2003.6.20


[たまご]
子供の頃十姉妹を飼っていた。つがいの十姉妹は卵を産み、やがて卵が孵った。 そのうちの一羽は、嘴の合わせがおかしかった。
その噛み合わせが悪いヒナは、ある日巣から落ちて死んでいた。
子供の頃文鳥を飼っていた。その内に卵を産んだ。
つがいでない文鳥の卵は無精卵だから、孵らない卵をいつまでも抱かしておいてはいけないと父が言った。
子供の頃つがいのウズラを飼っていた。その卵を食べたかどうかは忘れてしまった。
随分前の話。
ある朝、とびきり天気が良い朝。卵を一つ茹でた。
私は急いでいた。固茹でにするには少し早いと思ったが、鍋を火からおろし、水で卵を冷やしてから、シンクの上に置いた。
身支度に取りかかっていると、『ぢぃゆぅん、ぢぃゆぅん』という音がする。 何の音だろう?似ている音を私は知っている。
ああ、そうだ。小雀の鳴き声に似ている。子供の頃、小雀を拾って来て飼った事がある。
近くから聞こえて来るけれど、窓の外に雀が巣でも作ったのかしら。それにしても随分近い。
それとも排水溝が変な具合になってて、こんな音がするのかな?シンクの下の扉をパタパタと開けたり締めたりする。シンクの上には、茹でた卵がある。
私はその時、平飼い卵を買っていた。
平飼い卵とは、地面の上で、にわとりさんがのびのびと飼われ、無精卵か有精卵かは、にわとりさん次第なので分かりませんと言う卵だ。
自分が茹でた卵が、有精卵だったという事がこれで分かった。シンクの上で茹でた卵が『ぢぃゆぅん、ぢぃゆぅん』と鳴いていた。
『ぢぃゆぅん、ぢぃゆぅん』と鳴くものの、殻を割って出てくる様子はない。
外はそりゃあ〜良い天気ですぜ、でも一転して私には地獄の朝となりやした。
だってあんた、冷蔵庫で何日過ごしたと思ってんの?二日?三日?それから鍋で茹でられてたのに気が付かなかった?
別の卵の話。
夏、雑草取りをしていると、ひっこぬいた雑草で土が掘りかえり、そこから小指の先ほどの白い卵が出てくることがある。
カナヘビの卵だ。そーっと土をかけて元に戻す。
ある時、カナヘビの後ろから、だんご虫が歩いて来た。カナヘビはじっとしている。だんご虫はどんどんとカナヘビに近づく。
どうなるのだろう。どちらが優勢なのだろう。カナヘビとだんご虫の戦いはいかに!
何の事も無く、だんご虫はカナヘビの後ろ足の『く』の字にまがった隙間を通り抜けて行く。
カナヘビ動かず。なんだよこれ、運動会の障害物競争かよ。ああ、何にも起らない幸せ!
冬、ふせて置いてあった植木鉢をめくる。そこにカナヘビの白骨を発見。
形がそのまま残っている。ちょっと驚く。ちょっと感動 。ちょっとジュラシックパーク。2003.3.28


[ハト]
古本屋と本屋で色々買った。
古本屋で買うのは映画関係がほとんどだが、昔の一般週刊誌の記事を拾い読みするのも面白い。
『ハトの御用聞き』のカコミが載っていたのは昭和20年代の週刊新潮だったと思う。
御用聞きが注文を取ると、伝書バトの足に、注文を書いた紙を括りつけ飛ばすという記事で、
全部の注文を取ってから店に帰り、品を用意していては、お客さんに品物を届けるのが遅くなるからと考え出された方法なのだが、なんとものんびりしている。
もちろん電話が普及してない時代の話。
その方法は、どの位の間続けられただろうか。
前にハトを保護した事がある。道路をうろうろと歩き、車が来ても飛び立てず、路肩の少しの段差さえ上がれなくなっていた。
ハク(白)のレース鳩で、足鐶をしていたので、その番号からすぐに飼い主が分かると思い保護をした。しかし事はそう簡単ではなかった。
鳩レース協会に電話をし、その鳩を売ったペットショップまでは分かったが、そこが潰れていて、その先の事が分からない。
鳩の餌を買って来てあたえていたが、鳩の様子はというと、ぐったりしているわけではないが、どの位回復しているかが分からない。
飛べるまでに回復しているかを試すため、近くの公園で放してみたがどうも思わしくない。
何回か試している内に、近所のおじいさんが来た。その鳩を見て、「この鳩には、トサカがあるね」と言うので困った。にわとりじゃないんだから。
でも良く見ると、頭の上に飾り毛がある鳩だった。私はずっと、鳩が疲労困ぱいしていて、頭の毛が乱れているのだと思っていたのだが、
おじいさんの方が正しいようだった。その鳩は見目麗しい白い飾り毛がある鳩だったのだ。
私はおじいさんにその鳩の事を話した。
おじいさんが十姉妹を飼っているのを知っていたので、もしかしたら、おじいさんがその鳩を飼う気にならないかしらと、淡い期待をもってのことだったが、
おじいさんはトサカの話しをするばかりだった。
それから、新しい飼い主を探すまで時間がかかった。
新しい飼い主には新しく買った鳩の餌を一緒に渡した。家には、先に買っていた鳩の餌がまだ残っていた。
私は近くの公園で、その餌をまいてしまうことにした。
その餌は茶色の紙袋に入っていた。袋の口を開きかけただけで、公園のドバトがすごい勢いで集まり、頭から、腕からたかられてしまった。
パンをまくのとは大違いだった。あたり前だが、鳩は鳩の餌が大好きなのだ。
驚いた事に、翌日私はその公園を横切る事が出来なくなった。
公園に入りかけただけで、鳩が飛んで来るのだった。それは数日続いた。2003.3.16

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